2012年12月4日火曜日

伊藤計劃『メタルギアソリッド』――空想対話的レビュー

            
非実在登場人物
ハル:男。適当。多分チャラい。多分ファッションMGS好き。関西人だけど共通語。「俺」
ナツ:女。言い出しっぺ。伸ばす語尾が若干うざい。実は本結構読んでそう。「私」
アキ:女。関西弁。適当。あんま本読まないタイプ。「あたし」
フユ:男。甘党。寡黙すぎた。ショタじゃねーし。「ぼく」

注意!
この対話は、フィクションであり、自分の参加した読書会を終えて、そこで話したこと、その後考えたこと諸々を含めて再構成したものです。過渡な期待はしないでください。
あと、画面からは150ペリカは離れてみやがってください。

あ、ネタバレあるかも?


ちなみに、読んだ直後にこんなの書いてます→〈伊藤計劃「MGS」ノベライズを読んだ直後に残しておきたい文脈〉


==========

時は今頃、今日も今日とて、京都にて、ハル・ナツ・アキ・フユの四人は、自分達に似つかわしくない、オシャンティなカフェで彼らは顔を突き合わせている。
注文を済ませた彼らは、同じ本を机の上に置いて話し始めた。

ハル:今日の読書会は伊藤計劃の『メタルギアソリッド サンズ・オブ・パトリオット』を読むわけだけど……
ナツ:「サンズ・オブ・ザ・パトリオット」じゃなくて、「ガンズ・オブ・ザ・パトリオット」だよ、アキ。「愛国者たち」が作り出したシステム――ソップだっけ?――その上でコントロールされた、銃火器(ガンズ)のことでしょ、多分。
アキ:ああ、そっか。章のタイトルがSunにしろSonにしろ、「サン」が出てくるから勘違いしちゃったよ。
ナツ:章は順番に、Liquid Sun、Solid Sun、Third Sun、Twin Suns、Old Sun、Naked Sin、Naked Sonっていうタイトル付けになっていて、意識的なのは確かだよね。Sinだけ別だけど、その意味は読めばすぐにわかる。
アキ:読書会、どうやって進めるん? 「先ず隗より始めよ」的に、みんなに読書会しようって声かけたハルに任せていいわけ?
ハル:えっ、俺に丸投げ!? 本を選んだのはナツだもん。
ナツ:なんでもいいってハルが言うから、私の独断で適当に選んだだけだよー!ハルが主導すべきー。
ハル:えっ、でも、それってさ……

長きにわたる押し付け合いの議論は全略

フユ:……どうでもいい。
ハル:ですよねー。
ナツ:途中自分でも、どうでもいい気がしてた。気を取り直して……何か感想でもある? とりあえず、みんなの感想を順に聞いていこう。アキはどうだった?
アキ:あたし、MGSのこと何も知らんかったけど、楽しめた。描写も丁寧やのに、説明臭さは感じひんかったし。
ハル:小説としての完成度の高さ、その上、シリーズの世界観を大切にしてる感じもあってよかった。実は今回この小説を読んだのは2回目なんだけど、俺も楽しめたよ。
ナツ:アキは、久しぶりに小説読んだって言ってたっけ。前に勧めた伊藤計劃の長編『ハーモニー』も面白かったって言ってたよねー。
ハル:若くして亡くなったこと、すごく惜しまれるね。長編はたったの3作だけなんて。
アキ:えっ? 嘘、この人亡くなってはんの。……あぁ、どうりで――いや、そういう言い方もどうかと思うけど――老いとか、死とか、痛みとか、喪失とか、そういう箇所の描写に真に迫るものがあって、ヒリヒリしたんか……。
ナツ:文庫版は解説をMGSの生みの親である小島秀夫さんが書いてるのも、また泣かせるよね。「自分でも気付かなかった物語の側面に気付かされた」って、小島さんほどの人が素直に書いてしまうこと自体、心が震えた。
アキ:そしたら……なんか、消えて行くものとしてのスネークの言葉や思いが、同時に伊藤計劃の声として聞こえるよなぁ。どこやったか正確な箇所は忘れたけど、「死んでも、人の中の文脈として生きることができる」って感じの言葉があって、普段なら「へー」とかって聞き流しそうな言葉やけど、やけに胸に刺さったんをはっきり覚えとるわ。
ハル:アキは泣き虫だもんな。
アキ:なんや急に。あと、あたしは泣き虫ちゃう。
ナツ:まぁまぁ。……押し黙ってるけど、フユはどうだった?
フユ:……例えば、オタコンは、伊藤計劃の分身……かな、とか。
ナツ:ああー確かにー。伊藤計劃は「セカイ、蛮族、ぼく。」っていう小説を読めばわかるけど、結構オタク的気質もあるし、オタコン=伊藤計劃かもー。他にも、東北大のSF研サイト『虐殺器官』のページで、小説の一節が、ときめきメモリアルの歌詞の引用だってことが書いてあるのを読んだことあるしー!
フユ:……それもある。
ハル:語り手としてダブっていくってこと?

フユは無口なままに頷いた。なんでも、フユは昨日、徹夜でゲームをしていたのだと言う。
I wanna be the guy.通称「アイワナ」というフリーゲームを、延々と待ち合わせの直前までしていたようだ。
徹夜なんてしなくても、フユは大体眠そうな顔をしているのに。もしかしたら、ご飯だって食べていないかもしれないな、とアキは思った。

アキ:確かに。オタコンが物語として、MGSを語っていくっていう体裁やもんね、これ。しかも、ただ語るだけではなく、「きみ」に対して、スネークの物語を語るっていう。当然、「きみ」は、読者に通じていくことになる。
ハル:でも、オタコンが知り得ないことを描写してたり、スネークの一人称でもないのに、スネークに没入して、感情移入して、スネーク本人として小説の森に入っていけたよ、俺。オタコン一人称でありながら、それに収まり切らないね。
アキ:それはわかるわー。あたしもそうだった。スネークも分身で、オタコンも分身……というより、登場人物みんな伊藤計劃の分身やんね。単に、筆者が生み出したものという意味での分身というより、経験と感覚を分有している存在としての「分身」みたいな。もっと切実に分身。
ナツ:人間ではなく、ボロボロになった雷電とかね。例えば、伊藤計劃自身のブログに、「サイボーグな俺」(04/26 2006)ってエントリがあったりして、必然的に重なるよねー。ちなみに、ブログ記事や、短編、同人誌とかとか、諸々を収録したのも、『伊藤計劃記録』『伊藤計劃記録 第弐位相』として出版されてる。一部はダブってるけど、短篇集『The Indifference Engine』(ハヤカワ文庫)ってのもあるー。
アキ:こないだナツに借りた、『ハーモニー』も、一応主人公の一人称っていう体裁やけど、でも実際の所、プログラムコードが物語を語っとるよね。物語を表示しているって言うべきかな――とにかく、伊藤計劃の「語りの人称」は不思議な感じ。


ナツ:MGSの頭文字が、「Meme(ミーム、模伝子)」、「Gene(ジーン、遺伝子)」、「Scene(シーン、時代)」をテーマにしてるって話もあるんだよー。
ハル:そういえば、「SENSE(センス)」って言葉も気になった。MGS4の攻略wikiにすら書いてあるけど、多義的に使われるこの言葉は、本作の重要なテーマでもあるとか。
ナツ:「いいセンスだ」
ハル:そうそれ。オセロットがスネークに言う台詞ね。……でも、この台詞自体、確かBIG BOSSがオセロットに対して言ったものなんだよね。
ナツ:そう、この会話自体、一種のミーム伝達ってことを思うとグッとくる。ビッグボスからオセロット、そしてソリッドへ。
アキ:ほえー。ヘイヴンでの格闘の時のその台詞、やけに浮いて見えてよくわからなかったんよね。そういう裏があるのか。
フユ:……小島さんの『ダ・ヴィンチ』での連載、「僕が愛したMEMEたち」。
ナツ:ああ、雑誌『ダ・ヴィンチ』で好きなコンテンツ紹介してるやつね。今でもずっと小島秀夫的に重要なテーマなわけだ。でも、センスってなんだろ。いまいちよくわからないよね。
ハル:「さすがあの男の息子、いいセンスだ」って言い方になってるよね。多少はGENEも関係あるみたいだけど……
ナツ:雷電へオタコンやスネークがかけた言葉、蛇達の葛藤を思えばそれに尽きるわけではないってことも明らかだよねー。あと、ゲームだったら、「世界を変えることではなく、ありのままの世界を残すために最善を尽くすこと。他者の意思を尊重し、そして自らの意思を信じること、それがあんたの遺思だった」って言葉の、「意思」にSENSEって言葉が当てられてた気がする。
ハル:決心、確信、意志、色々な精神的な言葉に、センスという言葉が重ねられてるんだよね。確か本文でも、身体との対比で心に「センス」ってルビが振られている箇所があった。
アキ:ねぇ、二人して盛り上がるのはいいけど、フユが寝そうだよ。
フユ:……ぼくは、寝てない。
アキ:あらそう。ならよかった。
ハル:どっちの意味だろうね。……いやはや、伊藤計劃とかMGSとなると熱くなってしまうのも仕方ないとはいえ、ごめんごめん。
アキ:……結局、「センス」って自分の中にある能力を、信じて磨くってことなんかな? でも、「いいセンスだ」って言葉が他人からの評価であることも含めて、他人に見出されるものっぽくない?
ハル:そうだね。他人に見出されるその人固有の何かがあって、それを磨くというような……。ミームとジーンについては、両方関わってるんだろうね。
ナツ:ま、それが妥当な落とし所だろねー。
フユ:……ハル、ケーキおごって。
ハル:「そういや、思い出したけど……」みたいな感じで、さらっと人にたかるな!
アキ:でも、おごらないと、フユはこれ以上、一切読書会で話さへんつもりみたいよ。
ハル:えっ! なに勝手にフユを借りてお前までたかろうとしとんねん……
ナツ:焦るとハルも関西弁出るんだね。別に関西弁でいいのにー。
アキ:なんとなく共通語がいいんだとさ。あたしはフユに分けてもらうから、ケーキは一個で許したげるよ。

そう言ってアキはハルの肩を叩いた。眠たげな顔のフユと、期待のこもった視線のナツに見つめられたハルは、しぶしぶ店員を呼び止めて、フユにひとつ注文させた。

ハル:あと、チーズケーキも。はい、以上で。
アキ:チーズケーキもくれるん?
ハル:チーズケーキは俺の分だよ!
ナツ:そしたら、ケーキも注文したわけだし、フユは何か話してくれるの?
フユ:……これは、藤崎竜の『封神演義』に似てる。
ナツ:藤崎竜! 『屍鬼』好きだったなぁ、私。小野不由美原作だけど、藤崎竜的解釈・ズレが小野不由美の世界観と調和してて、いいメディアミックスだったよ、あれは。
アキ:んー、『封神演義って、』漫画のやつか。女禍=「愛国者達」ってこと?
ハル:それなら、藤原カムイの『ロトの紋章』だって、ラスボスの異魔神(イマジン)……うわぁ、ちょっと今この当て字を説明するのは歳的にキツいけど……だって、「愛国者達」になってしまうんじゃない?
アキ:なに、いいやんか、RPG的中二病。
ハル:でも、実際に口にするのは……結構、ねぇ?
フユ:……愛国者達」は一種の作者。
ナツ:作者?
フユ:……分身というより、機能として。

ハルは頭を掻いて渋そうな顔をする。フユはただ寡黙なだけでなく、言葉を省略し過ぎる。

ハル:もうちょっと言葉を足してくれ、フユ。
フユ:ハル、岡田斗司夫。
ハル:……あっ、あれか。クリエイターは、色々物語る内に、登場人物達と、作者という存在を対置させたくなるってやつ。どれだけ登場人物に思い入れがあって、登場人物が好きでも、その世界、その物語の中でしか生きることはできない。そんなことを、岡田斗司夫が言ってた。
ナツ:なるほど……。全知全能の存在なわけか、登場人物からすれば作者って。そして、文脈――「愛国者達」が用意した文脈――の下で、管理される。
ハル:けれど、スネークやオタコンの口を借りて雷電に言っているように、「手の中にあっても、そこでお前の感じたことはお前だけのものだ」と。
アキ:そういや、『封神演義』って、神仙世界と人間世界の分離の話や。人間が、自分達の自由な意志と確信で、自分達の歴史を作っていく、みたいな。厳密には、両世界は分断されたわけじゃなくて、管理みたいな仕方で神仙が人間世界に干渉せんくなって、出会うことがあっても、私的な交流に留まっとる。
フユ:……支配・管理から、避難所(ヘイヴン)・自由を求めるのはよくある。あ、ケーキ。
アキ:フユが二言以上続けて喋った!?

細い目を少しだけ大きくして、フユは店員からケーキを受け取る。子供みたいに嬉しそうな顔をしたフユに、さっきは渋い顔をしたハルも微笑んだ。
どうせこれだって、おごりでなくフユはちゃんと自分で払うだろう。みんなハルをからかうのが好きなだけだ。

ナツ:言い残したことある人はどんどん行こうか!その間に、私はハルのケーキをつつくー。
ハル:おい。全部食べたらぬっ殺すからな、ナツ。

「振りか?」とばかりに目を輝かせたナツの表情にハルは本気でうろたえる。だから、からかいたくなるんだ。かわいいやつめ。


         

ハル:じゃぁ一言だけ。ゼロ年代批評的に言えば、アーキテクチャ(意識させない環境による管理)と、ここの物語の対立なのかなーと思った。
アキ:「愛国者達」の管理と、登場人物達の物語、ね。
ナツ:本文だと、アーキテクチャじゃなくて、「愛国者達」の《文脈》って言葉だよね。多分、設計された全体の大きな流れ、みたいな感じの。
アキ:最後の最後にある文章が示唆的やね。「毎日の食卓にも、誰かの物語が生きている。この世界は、そんなささやかな物語の集合体なんだ」

ナツはぶんぶんと首を縦に振る。アキに同意しているのか、それともケーキが美味しいのかどちらだというのか。……多分、両方だ。
フユは黙って黙々とケーキを食べる。彼の顔は今や満足気にホクホクしていて、口角を上げたまま、ただただもぐついている。
アキは半分くらい食べてしまったら、フォークを乗せて皿をハルの前へ滑らせた。

ナツ:思えば、結構分厚いよね、この本。文庫で500ページくらいかな。全体としては文句なしに☆5つだけど、気にならない所がないとは言えないかなぁ。せっかく、目玉焼きを作るシーンが何度も出てくるのに、食事の描写がないのは残念。まさに最後に「食卓」って文章があるように、関係を作ったり、お互いの絆を確認する場としての「食事」って重要だと思うんだけどなぁー。
ハル:「まずい」とか「黒焦げ」とか、報告や説明しかないよね。食べているシーンは小説の中になさそう。食事は、生活を象徴する部分だもんね。一番変化を受けやすく、一番重要性が意識されない。関係が変化すると、必ず「食事」の場に変化が起きる。
アキ:あたしは、「スネーク、この任務を成し遂げられるのは、お前しかいない」っていうのが、「いやいや、いるでしょう、色々」って突っ込みたくなったわ。ID銃とかSOPとか、説明の付けようはあったし、実際そう説明されてるけど、流石に「オールド・スネーク」だけに任せるのは、ねぇ。
ナツ:その辺は、ゲーム的都合だから仕方ない。
アキ:まぁ、そうだろうけどね。いや、細かい点だし、それくらい気にならないけどね。
ナツ:私は、フランケンシュタイン/ドラキュラが気になった。「これは打ち捨てられた東欧の古城の現代版だ。ここにもドラキュラ伯爵が出るとしたら、やはり現代風にアレンジされているに違いない。あるいはフランケンシュタインの怪物だろうか」って所とか。
ハル:伊藤計劃の未完の遺作『屍者の帝国』、ね。まさに、フランケンシュタインだ。『虐殺器官』のストレートな延長上にある作品。円城塔が友人として書き継いだ作品。

         

ナツ:SFマガジンに、円城塔の刊行後インタビューとかあって、なかなかよかったよ。Togetterでも、編集者が刊行の経緯を語ってたよね。他には、毎日.jpにもロングインタビューあったかな。
ハル:詳しいな、お前。『虐殺器官』でもフランケンシュタインって言葉出てきたっけ?
ナツ:それは流石に覚えてないや。
ハル:「現代版」って所は、つまり「(現代的)テクノロジーによる実現」ってことだろうね。ドラキュラは、ヴァンプに即して言えば、「不死」。圧倒的な治癒能力。
アキ:フランケンシュタインは、強化外骨格に代表される、機械化された身体……いやもっと言えば、人工の身体かな。雷電なんかは、血液が白いって描写もあった。改造人間、人工の人間、「サイボーグな俺」……。
ナツ:雷電がフランケンシュタイン的だってのは皮肉だね。フランケンシュタインは、稲妻を浴びて生命を得て、起動するんだから。
ハル:改めてこの小説読み直して感じたのは、伊藤計劃って、想像以上にメタルギアシリーズの延長の上に立っているってことだなぁ。
ナツ:うんうん。でも、誰にでもできるわけではなかったと思うー。夭逝したってのもあって、やけに祭りあげちゃう所はあるけど、それでも確かに、誰にでもできるものでなくて、現に伊藤計劃しかできなかったってのは確かだと、私は思うんだ。

結局アキは、ケーキをフユからもらわなかった。ちょっと残念な気持ちもあるけど、フユ嬉しそうな顔を見るとそれでいい気もした。帰りにファミマでもよって甘いモノを買おう、とアキは思った。
食べ終えたフユは、自分のサコッシュからごそごそと一冊の本を取り出した。
件の本、『屍者の帝国』。
フユはアキの顔を見て少し微笑んだ。まだ読んだことのない、その分厚い本の内容をアキは想像してみた。
完全な妄想に旅立つ寸前に、「そろそろ出ようか」というハルの言葉に、現実へと引き戻された。伝票を手に持って、ナツも立ち上がっていた。
「次、『新世界より』って本になった。今回よりも長いから、心してくれよ、アキ」とハルに笑われた。
アキが心ここにあらずでいた間に、次回の読書会の本もさくっと決定していたらしい。
普段本を読まないアキも、こういう機会なら、どれだけ長くても読めるかもしれないと思った。

「ねぇ、なんか、美味しいもの食べに行こうよ」

真っ先にフユが頷いて、先に立ち上がったナツとハルもそれに同意する。
このまま解散も寂しいし、と思わず口をついて出た台詞にアキは感謝した。平凡だけど、こういう「物語」もありかもしれないな、と密かに思い、アキは笑った。

0 件のコメント:

コメントを投稿